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鹿児島地方裁判所 昭和32年(ワ)34号 判決

原告 丸安有限会社

右代表者 西岡安平

右代理人支配人 福元俊彦

被告 今福利三郎

右代理人弁護士 山本茂雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告と訴外須崎末雄間に、昭和三十一年一月十三日、金三十五万円弁済期同年二月一日の消費貸借が成立し、その際、若し弁済期迄に弁済できないときは、代物弁済として本件宅地及建物を原告に所有権を移転する旨の停止条件付代物弁済契約がなされたかどうかについて判断するに、成立に争いなき甲第一、二号証、証人須崎末雄の証言及弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外須崎末雄は、昭和三十一年一月十三日、金融業である原告会社から金五十万円を借受け、内金三十五万円について本件宅地及建物を担保とし、他の金十五万円については瓦製造用の型を担保として、利息は月五分と定め、弁済期は、証書の上では同年二月一日となされていたが、利息さえ支払えば少々おくれても差支えないとの口約の下に、弁済期に支払えないときは代物弁済として本件宅地及建物の所有権を原告に移転する特約をして、右金員を借受けたこと、そして、右訴外人は原告に利息として、同年七月までは金二万五千円宛(月五分に相当する金員)を支払つたが、同年八月分として、同月十二日利息の内金一万五千円を支払い、その際弁済期を同年同月末日迄に延期方合意が成立したこと、その後は元利金の支払いをしていないこと、を認めることができる。

二、而して、右不動産につき、前記停止条件付代物弁済契約に基き、昭和三十一年一月十四日その請求権保全の仮登記、次で昭和三十二年一月二十一日その本登記をなしていること、被告が右須崎末雄に、昭和三十一年七月二十七日、債権額金五十九万七千円、弁済期同年九月三十日の債権担保として、本件不動産に同日抵当権設定登記していることは、孰れも当事者間争いのないところであるが、果して原告の本訴請求は正当であろうか。

三、そこで抗弁について判断する。

先づ抗弁(4)についてみるに、

前記各証拠によれば、前記認定の事実の外に、尚、右須崎は、同時に、右債務担保のため本件不動産に一番順位の抵当権を設定し、前記仮登記と同日の昭和三十一年一月十四日その登記を了したこと(登記の点は争いない)を認めることができる。

これを要するに、原告会社は金融会社であつて、金三十五万円の債権担保として、金八十二万円以上の価値のある本件不動産(この点当事者間に争いがない)に、一番順位の抵当権設定登記をなし、同時に、他面弁済期に弁済なきときは、代物弁済としてその所有権を取得するという停止条件付代物弁済契約をなしており、しかも、その弁済期は、前に認定の通りであつて、この事実によれば、債務者たる須崎末雄は、月五分の利息の支払を怠れば、昭和三十一年二月一日以後はすぐ条件成就し、原告の一方的行為によつて代物弁済として所有権を取得される仕組になつていること明らかである。従て、右条件付代物弁済契約は、以上のような事情のもとにて、債権額の二倍以上の価値のある物件の所有権の取得を目的とする契約であつて、この契約自体は直接には利息制限法には牴触しないが、その結果は、右法律の規定する制限超過の利息乃至損害金の支払いを受けると同一の結果となり、おそらく、債権者たる原告としては、その職業上、右法律を回避する手段にあつたものと解するのが相当である。

利息制限法によれば、同法制限超過部分の利息及損害金の約定は、超過部分は無効と規定し、この法律は経済的弱者保護を目的とする強行規定と解する。

されば、右停止条件付代物弁済契約は、利息制限法の制限を超過する高利を得るために、之を回避する手段としてなされたもので同法の脱法行為として無効と解する。

果して然らば、原告は未だ本件不動産の所有権を取得していないものと謂わなければならない、故に、たとえ、代物弁済により所有権移転登記があつても、右登記は原因無効の登記で何人に対する関係に於ても右登記の効力を主張し得ないこと明らかである。

原告の右登記の有効なることを前提とする本訴請求は既にこの点に於て失当と謂わなければならない。

以上説示の通りであるから、他の抗弁についての判断を省略し、原告の本訴請求を棄却し、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小出吉次)

〈以下省略〉

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